大判例

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大阪高等裁判所 昭和30年(う)1919号 判決

論旨は原判決の第一及び第三の事実について、被告人等の所為は何等恐喝罪を構成しないといい事実誤認を主張するのである。ところで被告人出崎豊太は加盟会員の依頼に基き信用調査をすることを営業目的とする株式会社経済興信所の専務取締役であり、被告人竹内一典は同興信所の調査員として雇われているものであるから、各商店会社の信用調査をすることも、又興信所会員への加盟を勧誘することも共に正当な業務であることは所論の指摘するとおりである。それゆえに信用調査と加盟の勧誘が個々に独立して別個の機会に行われれば少しも非難さるべきことではない。しかし、会社商店の資産信用状態、営業の状況等に極度に敏感な経済界において、興信所の調査報告事項が真実に合致するものであると否とを問わず、業者の信用状態に悪影響を及ぼすものである限り、その死命を制する程度が大きければ大きいほど報告して貰いたくないのは人情の自然であつてその発表を怖れていることは見易い道理である。それゆえに興信所の調査員が商店会社の信用状態について、悪影響のある具体的な事項を直接調査しその機会に乗じて従前加盟勧誘を拒絶していた業者に加盟を要求し、加盟料名下に会費の交付を受ければ、それはとりもなおさず自己の職業上の地位を利用して悪情報の報告発表を暗示したことになり、それは害悪を告知して相手方を畏怖させ金員を交付させたものであるから明らかに恐喝罪が成立するのである。そして加盟料金交付の反対給付として興信所の調査の切符が渡されて相手方が之を利用しているとしても、之を受取れば利用するのは当然であつて恐喝罪の成否にも少しも影響するものではないのである。原判決挙示の証拠によると、被告人両名は共謀の上、第一、他からの依頼に基き昭和二十九年一月八日頃大阪市東区高麗橋三丁目六番地所在の株式会社西権商店大阪支店が支払手形を不渡にした事実の有無を直接同支店長北川善喜に問いたゞして調査したが、その際被告人両名は右北川善喜が該手形不渡の事実が他に発表されることを極度に怖れているのに乗じ加盟料名義で同人から金員を恐喝して取得しようと企て同日同支店及びその附近の喫茶店「すぎや」でこれまで再三加盟を勧誘してことわられていた同人に対しこもごも「自分の興信所の二万円の口に加盟してくれ」と要求し、且つ暗にこの要求に応じなければ右手形不渡の事実を他に発表し、同会社の信用を毀損し同会社に損害を蒙らしめるべき旨を仄かして脅迫し、同人をしてその旨畏怖せしめ、同日右支店で同人から加盟料名義で金額二万円の小切手一通の交付を受け第三、さきに経済興信所がその依頼者に対し同市東区南本町三丁目十五番地所在の竹忠株式会社が巨額の損失を蒙つて倒産した後整理の上再発足した旨報告したことにつき同会社社長竹本忠司から該報告の取消方を申入れて来たので更に調査の上善処する旨を伝えその機会に乗じ、同興信所調査員長田武彦と共謀し、右報告の再調査と取消を種に右竹本忠司から金員を恐喝、取得しようと企て、同年三月十二日頃経済興信所等で既に他の興信所三ケ所に加盟しており被告人等の興信所に継続加盟を拒まれていた右竹本忠司に対し「この際継続加盟の一万円の口に入つてくれ更に日刊経済(年額一万円)を講読してくれ」と要求し、もしこの要求に応じなければ該報告を取消さず同会社からその信用を回復する機会を奪い、これによつて同会社に損害を蒙らしめるべき旨を暗示して脅迫し、同人をしてその旨畏怖せしめ、因て同日頃竹忠株式会社で、同人から加盟料名義で金額一万円の小切手一通の交付を受けてこれを取得した事実を認めるに十分であつて恐喝罪の成立することは多言を要しない。所論は原裁判所が適法になした証拠の取捨選択とその信憑力の判断を論難するものであつて採用に値しない。論旨は理由がない。

控訴趣意第四について

論旨は原判決第四の事実は株式会社経済興信所が発行する「特別情報」の報道記事についてその取消を求める関西繊維工業株式会社が取消費用を負担するのが当然で、その費用も特報発送部数千五六百枚、一枚の切手代八円、紙代、印刷代封筒代等一部二円五十銭合計一万数千円の実費を要し人件費を加えれば三万円は適当な金額であるから、何等恐喝罪は成立しないといい事実誤認を主張するものである。しかし、人の財産上の信用状態についての記事が真実の報道ならば何等取消す報道を出すべきではなく、又真実に反する報道ならば報道した者自らが自己の責任と負担においてその誤報を取消し訂正し相手方の信用回復の方法を講ずべきは当然の義務であると考える。それゆえに相手方の取消方申入れに乗じ、報道記事の真偽の程度を調査せず、自己の職業上の地位を利用して記事の訂正取消料金名義で金員を要求すればその要求金額と事後に費した訂正記事の実費との比率如何に拘らず、その全額について恐喝罪が成立するのである。原判決挙示の証拠によると原判示第四の事実は被告人出崎豊太はさきに経済興信所が特別情報を以て同市東区北久太郎町三丁目所在の関西繊維工業株式会社が六十万円の小切手を不渡にし主力銀行筋より警戒されその経営面は極めて悪く整理必至である旨自己の会員に公表したことにつき同会社社長河井尚より右記事の取消方を申入れて来たのに乗じ昭和二十八年九月中旬同区本町所在の大洋株式会社大阪支社で、中光夫を介して右河井尚に対し右記事の取消料名義で金員の交付方を要求し、もしこの要求に応じなければ該記事を取消さず右関西繊維工業株式会社からその信用回復の機会を奪い、これによつて同会社に損害を蒙らしめるべき旨を暗示して脅迫し、同人をしてその旨畏怖せしめ、因てその翌日頃右関西繊維工業株式会社で同人から右記事の訂正名義料で金三万円の小切手一通の交付を受けて之を取得した事実を認めることができる。所論は要するに原判決の正当な証拠の取捨選択を非難するにすぎない。論旨は理由がない。

(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 辻彦一)

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